森には疇昔(むかし)から 主(ぬし)とよばれる 鬼魔(あくま)が住んでいる
鬼魔と道(い)うも 不幸へ東道(みちび)くものでなく 森をキケンから見守(まも)っているのである
――そう、ボクは例(いつ)も この森を映(み)ている
昨日も 今日も 明日も 以前からずっと・・・
ボクには肉体(からだ)がナイから 人間(ひと)には幻(み)えない
しかし、那(あ)の所天(ひと)だけは 異(ちが)った
ボクの象(すがた)が 幻えるのだ
――いや、正確に道えば 気息(けはい)を寒(かん)じることが できるのだ
ボクは悦(うれ)しかった
森の者に好かれてはいるが 朋(とも)とよべるほど 親密(したし)い者はいなかった
そして、人間は 恐怖(こわ)がって近づこうとしない
何故だ?
『鬼魔が住む森』と 譜(い)って・・・
だから、那の所天が 鬼魔とよぶ者 萬法(すべて)、
悪い者と 定(きめ)つけてしまうでない≠ニ
キミが切要(たいせつ)にこの森を 見守っている――だから、
こんなに 美麗(きれい)な蒼翠(みどり)の樹々や草 澄んだ瞳子(ひとみ)の動物たちがいるのだ
キミは風景(こころ)の宝物を たくさんもっている・・・
今まで 僕が眺(み)てきた森の中で こんなに透き通る氣を 寒じたことはないよ
森の主は 悦しそうに 談(はなし)ている
誰かに 談かけている わけでもない
――何時(いつ)の日か、また 那の所天に逢えることを 祷(いの)りたい
ボクは鬼魔だけど この森を何時までも 見守り続ける
どんな キケンが 起ようとも・・・ |